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父 久米 信市と ご縁をいただいた皆さまに 感謝をこめて

投稿日時:2010/11/23(火) 23:09rss



平成二十二年十一月二十一日の夕刻、久米繊維工業 二代目経営者、父 久米 信市が、静かに息を引き取り、祖父母の待つ世界へと旅立ちました。

父の強い要望に従い、親族と社員有志だけの質素ながら心の通う葬儀を執り行いました。ご参列いただけなかった多くの方々も、心の中で合掌していただければ幸いです。

日本で最初にTシャツを量産し、日本のTシャツ史と共に歩んだ父でしたが、この十年間は、人知れず病魔との闘いを続けておりました。

まずは、心臓を患って生死をさまよい、ペースメーカーの手術を受けました。今も会社の金庫の奥には、当時の病める心臓の写真が貼ってあります。金庫を開ける度に、手術によっていただいた余命に感謝しながら、毎日を送っておりました。

その後も、父は何度も倒れては入退院を繰返しました。しかし、厳しい環境の中でも、何とか会社を守り抜こうと、病室に帳簿を持ち込んでまで頑張りました。私たち次世代に引き継ごうと不屈の闘志で生き続けてくれたのです。

しかし、四年ほど前、カテーテルの手術の際に、前立腺ガンが見つかり、進行もかなり進んでいることがわかりました。しばらくは、薬でなんとか抑えていましたが、昨年のちょうど今頃、父と私は、東大病院で余命三ヶ月から半年と宣告されました。

一縷の望みをかけて、親友たちの勧めで、統合医療の大家 帯津 良一先生の教えを受け、東大病院と並行して治療を続けました。一時は改善も見られ、少しだけ命を余分にいただくことができました。

その間に父はやり残した仕事を片付けようと必死でした。この残された時間をお互いに大切にしようと、この春からは、私も父と同じ部屋に仕事机を移して、できる限り顔を見合わせながら仕事をして参りました。「何かわからないことはないか」と、父は毎日のように私に尋ねました、父は重要な資料を丁寧に整理をしては、私に引き継いでいきました。
 
夏前からは、いよいよ病魔に蝕まれ、歯や頭に激痛が走るようになりました。いつも頬杖をつき頭を抱えて辛そうにしながら痛みに耐えていました。大好きな音楽を聴いて痛みを忘れようとしていました。夜も眠れず、昼間にうたた寝をするのがやっとでした。食事も喉を通らなくなり、弟たちと甘いコーヒーや杏仁豆腐を買ってきては飲み食いするのが日課になりました。そうでもしなければ、低血糖や栄養失調になってしまうからです。

父は、祈る人になっていきました。家族が全国の神社仏閣で買い求めたお守りを、机の上に並べて仕事をしていました。毎朝、仕事を始める前に、四方八方に頭を垂れては合掌していました。朝日の中で、心から祈り続ける父の姿が、今も忘れられません。

おそらく父は、今年三月の社債の償還、八月の二十四時間テレビ、そして九月の決算を、私以上に心配していたと思います。それを成し遂げるまでは、どんな痛みにも耐えて、何とか生き抜こうと祈っていたのだと思います。おかげさまで、本社も工場も社員一丸となって、この厳しい環境の中でも増収増益の決算をすることができました。その決算書を目にした時、父から握手を求めてきました。その手の温もりと笑顔が忘れられません。

そして、去る十一月の九日に、メインバンクの取締役が表敬訪問でご来社されました。その時、父は珍しく同席して、誇らしげに決算資料を自ら銀行に手渡しました。それは、黒字決算で自己資本が過半となった試算表と、複数の銀行から長期固定の低利で借換えた返済予定表でした。バブル崩壊後、何度も危機に見舞われ、時に眠れぬ夜を送った父は、ついに二十がかりの闘いに勝利したのです。

その翌日、父はベッドから自分の力では起きられなくなりました。兄弟で両肩を支えて、ようやく歩ける状態でした。もはや全身に痛みが回っていたはずですが、父は自宅での療養を望んでいました。

父は、倒れた翌日には、APEC中小企業サミットの日本代表として私が登壇することを知っていました。今思えば、私に心配をかけまいと、痛みを我慢してくれたのでしょう。死の間際に、父が、栄えある舞台に私が立ったと褒めてくれたことや、NHK首都圏ネットワーク出演を喜んでくれたことを、私は生涯忘れないでしょう。

父の病状は日に日に悪化してきました。あまりにも痛みが辛そうで、高熱も続いたため、十一月十三日に、父は救急車で運ばれました。東大病院のベッドは満室でしたが、強運にも、主治医の西松 寛明先生が当直だったため入院することができました。ありがたいことに、最後の一週間あまり、医師や看護士の皆様の献身的なケアを受けることができました。

なるべく父の側にいようと家族で病院に通いました。父が痛みをこらえながら聴いていた大好きな曲を流し、家族の写真をスライドショーで表示しながら、家族みんなで父の手を握り合いました。しかし握り返す手の力は、日を追うごとに弱くなっていきました。

話しかけると、父は二言目には「ありがとう」「ありがとう」と繰り返しました。時には「意気地がなくてごめんね」「迷惑をかけてごめんね」と私たちに謝るのでした。

最後の三日間は、呼吸をするのがやっとで、言葉を交わすこともできなくなりました。それでも、母が来て話しかけると父は目を輝かせました。確かに心が通じているのです。

最後の瞬間も瞳孔が開きかけているのに、子供三人が揃うまではと懸命の呼吸を続けました。そして、母の涙声の「ありがとう」を聴きながら、静かに息を引き取りました。

父は「ありがとう」と繰り返しながら、そして母の「ありがとう」を聴き続けながら、次の世界へと旅立ちました。

今も耳に残っている父の「ありがとう」の一言を胸に刻んで、私たちは生きていきます。これから死ぬまでの間、ご縁をいただいた方々に、どれだけの「ありがとう」をお伝えできるか、父から託されたのだと肝に銘じています。

その最初の「ありがとう」を、心からの「ありがとう」を、葬儀にご参列いただいた方々はもちろんのこと、世界のどこかで父に手を合わせてくださっている方々に申し上げます。

どうもありがとうございました。

                                   久米 信行拝

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コメント


お父様の御冥福を心よりお祈り申し上げます

久米さん

お父様の突然の訃報に接し、心よりお悔やみ申し上げます。

メールを拝読しまして、とても驚きました。

久米さんのブログを拝読しますと、最後までお仕事に真剣に取り組んでこられたお姿と、一生懸命闘病生活を支えられた久米さんやご家族の皆さまのお姿にとても感銘を受けました。

私も10年ほど前に父を亡くしまして、その時の寂しさは言葉では表現できません。

久米さん、ご家族の皆さま、社員の皆さまがお父様のご遺志を継いで、立派に久米繊維工業様をご発展していけるものと確信しております。

お父様のご冥福を心よりお祈り申し上げます。

合掌。

Posted by 石井邦彦 at 2010/12/03 07:31:00 PASS:

お悔やみ申し上げます。

ご尊父様のご冥福を、
心より、お祈り申し上げます。

「ありがとう」という言葉の大切さを
改めて感じました。

久米さんと御社のますますの発展をお祈り致します。

Posted by 蒲郡製作所 伊藤智啓 at 2010/12/03 11:44:00 PASS:

ご冥福をお祈りいたします

お父様のご冥福をお祈りいたします。

久米さんの心温まる、お父様の追悼記事を読んで、心を動かされました。

感謝を大切にする久米さんのルーツは、お父様から受け継いでいたのですね。

Posted by 小杉定久 at 2010/12/03 12:58:00 PASS:

ご冥福をお祈り申し上げます

本日お話を伺って驚きました。

この豊かなブログ葬を拝見し、強くて優しい理想の父子像と、強くて優しい「ありがとう」に、心打たれます。

これだけの素晴らしいご家族と会社を築き上げてきた御父上の人生に、ただただ感銘を受けるばかりですし、

それをしかと受けとめて前に歩き始めている久米さんにも、尊敬の念を覚えます。

心からご冥福をお祈り申し上げます。

Posted by 山内善行 at 2010/12/03 15:55:00 PASS:

素晴らしいご尊父様のご冥福をお祈り申し上げます

久米さんの文章を拝読し、知人の脳外科医の言葉を思い出しました。

「人の最期に人生そのものが集約される。」


激動の中にあっても、信念を貫く逞しさ、満ち溢れる愛情と感謝する気持ちを忘れずに歩まれた人生であったことが伝わってきました。

また、お父様のご意思が、久米さんの「縁尋奇妙」に脈々と受け継がれていらっしゃることも分かりました。

不撓不屈の精神で事業に挑まれ、最後までTシャツと会社と家族を愛されたご尊父様のご冥福を心からお祈り申し上げます。

Posted by 藤崎健一 at 2010/12/03 18:29:00 PASS:

お父様のご冥福を心よりお祈り申し上げます。

久米さん
久米さんのお父様とお会いすることはありませんでしたが、素敵な写真と久米さんの文章で、ご家族への思い、お人柄を知ることができました。ご家族からどれだけ愛されたかも。
これから先、お父様の感謝のお気持ちと「祈り」が久米さんやご家族の皆様の道しるべとなり、力となることと信じます。
お父様のご冥福を心よりお祈り申し上げます。

Posted by 野村国康 at 2010/12/04 01:17:00 PASS:

心からお悔やみ申し上げます。

久米さん

ブログを遅まきながら拝見し、お父様が亡くなられたことを知りました。

永いこと闘病されていたご様子、まったく知りませんでした。それだけに驚きも大きく、しかもたしか私と同年と伺ったことがあるような気がします。それだけにわたしも驚きというよりも、背中をが~んと殴られたようなショックを感じています。

ご本人はもとより、お母様はじめご家族の方々のご心配も大変だったとおもいます。
久米さんのご家族の様子もよく伝わる文面で、理想的なご家族の最後の模様も伝えていただいただけに、なおさらこみ上げてくるものがあって、泣きながら読ませていただきました。

この4月に三途の河を渡りかけてなんとか戻ってきた私にとっては、家族にかけた心配に対して、わたしは「ありがとう」を言わなければとかねがね思っていますが、、、。

最後になりましたが、お父様のご冥福をお祈り申し上げます。   合掌

Posted by 一樂信雄 at 2010/12/04 16:27:00 PASS:

ご冥福をお祈り致します

久米さん

ブログを拝見しました。
お父様とご家族がとても大切な時間を過ごされたんですね。

お父様の思いが未来に受け継がれていくことを確認できて、お父様も安心されたことと思います。

久米さんもお父様の思いを受け取る大切な時間を持つことができたこと、そしてご家族で感謝を伝えあう時間の温かさをブログから受け取りました。

くれぐれもご自愛ください。

Posted by 中島徳顕 at 2010/12/05 15:21:00 PASS:

ご冥福をお祈り申し上げます

昨日の横浜セミナーで、初めてお会いさせていただいた上鈴木です。

久米さんのセミナーでの笑顔、Tシャツにかける思い、地域活性化への思い、日本を元気にする思いをセミナーの中で感じ、初めてブログを拝見させていただきました。

セミナーの中で、お父様が亡くなられたとお話しされていましたが、つい先日のことだったのですね。

このブログ記事を拝見させていただいて、
お父様の思い、そしてそれに応える久米さんの思いが、ひしひしと伝わってきました。

私も久米さんのような素晴らしい人生を歩みたいと思っています。

それにしても遺影は素晴らしい写真ですね。
お父様のすべてを象徴するような感じを受けました。

お父様のご冥福をお祈り申し上げます。

上鈴木 順一

Posted by 上鈴木 順一 at 2010/12/16 11:25:00 PASS:

素晴らしい後継者であるご子息を持たれ、安心して逝かれたと思います

久米さん

久米さんには二度も書籍のインタビューでお会いし、愛情溢れるお父様のことをお聞きしていたので、本当に悲しみでいっぱいです。

久米さんのお父様には一度もお会いしたことがないのに、とても尊敬し、親しみをいだいておりました。

ですので、亡くなられたことがショックで、
書き込みをなかなかすることができなかった
ことをどうかお許しくださいませ。

不況のさなかに、あえて、家業をご子息である久米さんに継がせ、そのことで、最高の修業をさせようとお父様が決意されたことを伺い、大変感銘を受けたことをまざまざと思い出します。

お父様のご冥福を心よりお祈り申し上げます。

秋田英澪子拝

Posted by 秋田英澪子 at 2010/12/30 11:31:00 PASS:
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会社概要

1935年創業の老舗国産Tシャツメーカー。 半世紀以上にわたり、国産Tシャツ専門メーカーとしての誇りを持ち、裁断、縫製、検品、仕上げ、そしてプリントまで一貫して日本国内のグループ会社で生産する稀有なTシャツ・ギルドとして現在に至る。...

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個人プロフィール

1963年東京下町生まれのTシャツメーカー三代目。慶應義塾大学経済学部卒業後、87年、イマジニア株式会社に入社。ファミコンゲームソフトのゲームデザイナー兼飛び込み営業を担当する。88年に日興證券株式会社に転職し、資金運用・相続診断システムの企画開発、ファイナンシャル・プランナー研修で活躍。94...

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