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2008年06月23日(月)更新

舘野 泉さんのアンコール「シュールホフ:組曲第三番(左手のための)」よりアリア

先日の新日本フィル定期公演で、舘野 泉さん演奏の
ラヴェル「左手のためのピアノ協奏曲」に聴き入りました。

館野さんは、文字通り左手だけで見事に弾ききったのです。

 

「2002年の1月に脳溢血で右半身不随の身になってから、
 既に5年の歳月が流れ去ろうとしている。

 最初の2年間は、音楽に見捨てられたと思い、
 人生に何の希望も持てずに過ごした。

 だが、苦しかったその年月こそ、実は自分にとって
 掛け替えのない貴重な日々をもたらしてくれたのだ。

 左手で再びピアノに触れた時、音楽をするのに
 「両手だ、左手だ」という区別が
 まったく不要なものであることを実感した。

 左手だけでピアノの88鍵全域をカヴァーするのは確かに難しい。
 両手で弾くよりも遥かに困難なことは疑う余地がない。

 だが、決して不可能なことではないし、
 それに詰まるところ音楽とは技術の難易ではない。

 演奏によって何を伝えるか、
 何を表現するかが最も大事なことである。

 このことが分かるのに、
 最初の苦しい歳月が欠かせないものだった。

 「飢えは最上の料理人」と言うが、
 音楽に対する飢えにさいなまれたその時期こそ、
 こんにちの私の支えとなってくれていると思う。」


          (舘野 泉氏 公式webサイトより)



その左手のために-左手のためのピアノ作品集3

アンコールで館野さんが弾いた曲は
「祈り」そのものに聴こえました。

エルヴィン・シュールホフのアリア。

初めて聴く曲です。

静かに私の深奥に沁み入り、心が洗われました。
そして、何かが確かに共鳴するのです。

かつて、同じすみだトリフォニーホールで聴いた、
ロストロポーヴィッチ氏のアンコール
バッハの無伴奏を思い出さずにはいられませんでした。

演奏終了後、すぐにアンコール曲を確かめて、
その曲が含まれているCDを買い求めました。

このCDには、舘野さんの左手のために捧げられた
3人の日本人作曲家の曲が収められ、
その最後にアリアが添えられていました。

 林 光:《花の図鑑・前奏曲集》 ピアノ(左手)のために(舘野 泉に)

 末吉 保雄:《土の歌・風の声》(舘野 泉の左手のために)

 谷川 賢作:《スケッチ・オブ・ジャズ》

CDのライナーノーツによれば....

1894年プラハ生まれの作曲家シュールホフは
第二次大戦下、ナチス・ドイツの強制収容所で亡くなりました。
この曲は、戦争で右腕を負傷したピアニスト、
オタカール・ホルマンのために作曲されたのです。

「邦人作品だけのCDに、でもアンコールのように、
 シュールホフのアリアを弾いてみた。

 岸田今日子さんと七年前から続けている
 「音楽と物語」のシリーズで演奏してきた曲である。

 この曲に合わせて岸田さんが朗読したのは、
 谷川俊太郎の詩「クレーの天使」であった。

 それが忘れられない。」


          (舘野 泉氏 公式webサイトより)




クレーの天使」は、私の愛読書でもありますが、
 そこにこんな一節があります。

 「何が天使の贈り物か
  それを見分けることができるだろうか」


舘野さんは、たしかに
天使の贈り物を見分けたのでしょう。

そして、アンコールを聴いた私たちも
その分け前を少しだけいただいたのです。


 ▼舘野 泉氏公式サイト 
  http://www.izumi-tateno.com/

 ▼館野 泉「その左手のために-左手のためのピアノ作品集3 」
  http://www.amazon.co.jp/dp/B000JGCNWS/


久米 信行 網縁作務処
国産オリジナルTシャツ@久米繊維
グリーン電力×オーガニックコットン×アート@T-galaxy.com
ブログ起業論講師@明治大学商学部
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